今回は「πが無理数であることの証明」について解説します。
「πは無理数」ということは高校の授業で習いますが、「πが無理数であることの証明」は授業で取り扱わないことが多いです。「πは無理数だよ」「覚えておこう」みたいな感じですね。
この証明結構大変なんです。
「入試問題(2003・大阪大・後期)」でテーマとなったので、問題をときながら証明していきます。
この記事を読むと
・πが無理数であることの証明方法
・漸化式を求める式変形
・背理法を利用した証明方法
などについて理解することができます。
この記事は「わか」が執筆しています。
私「わか」(https://twitter.com/wakkachan2019)は、国立大学数学科を卒業後、数学教育に10年以上関わっています。
問題:πが無理数であることを示せ(2003・大阪大・後期)
πを円周率とする。次の積分について考える。
$$I_0=\pi\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt$$
$$I_n=\frac{\pi^{n+1}}{n!}\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt (n=0,1,2,\cdots)$$
(1)\(I_0,I_1\) の値を求めよ。また、漸化式
$$I_{n+1}=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}$$
が成立することを示せ。
(2)πが無理数であることを示せ。
ただし、正の数aに対して\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{a^n}{n!}=0\)が成立するとしてよい。
(2002・大阪大・後期・一部改)
解説:πが無理数であることを示せ(2003・大阪大・後期)
(1)解説①:\(I_0,I_1\)を求める
条件の式を確認
$$I_0=\pi\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt$$
$$I_n=\frac{\pi^{n+1}}{n!}\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt (n=0,1,2,\cdots)$$
まずは \(I_0\) を求める
$$I_0=\pi\int_0^1sin\pi t dt$$
$$I_0=\pi\left[-\frac{1}{\pi}cos\pi t\right]_0^1=2$$
次に \(I_1\) を求める
$$I_1=\pi^2\int_0^1\color{blue}{t(1-t)}\color{green}{sin\pi t} dt$$
瞬間部分積分を使う
\begin{array}{ccc} && & \color{green}{sin\pi t} \\ & & & ↓\int \\①&+&\color{blue}{t(1-t)}&\dfrac{-1}{\pi}cos\pi t\\\hline&&’↓&↓\int\\ ②&-&-2t+1&\dfrac{-1}{\pi^2}sin\pi t\\\hline&&’↓&↓\int\\③&+&-2&\dfrac{1}{\pi^3}cos\pi t\\\hline\end{array}
$$I_1=\pi^2\left[\underbrace{t(1-t)\frac{-1}{\pi}cos\pi t}_{①}+\underbrace{(-2t+1)\frac{1}{\pi^2}sin\pi t}_{②} +\underbrace{\frac{-2}{\pi^3}cos\pi t}_{③}\right]_0^{1}$$
①と②の部分は0,1を代入すると「0」になるので
$$I_1=\pi^2\cdot\frac{4}{\pi^3}=\frac{4}{\pi}$$
(1)解説②:漸化式証明
ここが大変なところです。
$$I_{n+1}=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}$$
を示す。\(\require{cancel}\)
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\int_0^1\underbrace{t^{n+1}(1-t)^{n+1}}_{A_{n+1}}sin\pi t dt$$
\(A_{n+1}=t^{n+1}(1-t)^{n+1}\) とおく
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\int_0^1A_{n+1}sin\pi t dt$$
部分積分のために先に \(A_{n+1}\) を微分計算する
1回微分
$$A_{n+1}’=(n+1)t^n(1-t)^{n+1}-t^{n+1}(1-t)^n$$
2回微分
\begin{array}{ccc} A”_{n+1}& = & \color{blue}{n(n+1)t^{n-1}(1-t)^{n+1}}\\&&\color{green}{-(n+1)^2t^n(1-t)^n} \\ &&\color{green}{-(n+1)^2t^n(1-t)^n} \\&&\color{blue}{+n(n+1)t^{n+1}(1-t)^{n-1}}\end{array}
それぞれまとめて
\begin{array}{ccc} & = & \color{blue}{n(n+1)t^{n-1}(1-t)^{n-1}\underbrace{((1-t)^2+t^2)}_{t(1-t)の形に変形}}\\&&\color{green}{-2(n+1)^2t^n(1-t)^n} \end{array}
\begin{array}{ccc} & = & \underbrace{n(n+1)t^{n-1}(1-t)^{n-1}}_{分配する}\{-2t(1-t)+1\}\\&&-2(n+1)^2t^n(1-t)^n \end{array}
\begin{array}{ccc} & = & \color{blue}{-2n(n+1)t^{n}(1-t)^{n}}+n(n+1)t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}\\&&\color{blue}{-2(n+1)^2t^n(1-t)^n} \end{array}
青部分をまとめて
\begin{array}{ccc} & = & -(4n+2)(n+1)t^{n}(1-t)^{n}+n(n+1)t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}\end{array}
\begin{array}{ccc} A”_{n+1}& = & -(4n+2)(n+1)t^{n}(1-t)^{n}+n(n+1)t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}\end{array}
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\int_0^1A_{n+1}sin\pi t dt$$
部分積分して
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\{\underbrace{\left[A_{n+1}\frac{-1}{\pi}cos\pi t\right]_0^1}_{0}-\int_0^1A_{n+1}’\frac{-1}{\pi}cos\pi t dt\}$$
\(A_{n+1}\) は「0」と「1」を代入すると「0」なので
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\{\int_0^1A_{n+1}’\frac{1}{\pi}cos\pi t dt\}$$
もう1度部分積分して
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\{\underbrace{\left[A_{n+1}’\frac{1}{\pi^2}sin\pi t\right]_0^1}_{0}-\int_0^1A”_{n+1}\frac{1}{\pi^2}sin\pi t dt\}$$
\(A_{n+1}’\) は「0」と「1」を代入すると「0」なので
$$I_{n+1}=\frac{\pi^{n+2}}{(n+1)!}\{-\int_0^1A”_{n+1}\frac{1}{\pi^2}sin\pi t dt\}$$
$$I_{n+1}=\frac{-\pi^{n}}{(n+1)!}\int_0^1\color{blue}{A”_{n+1}}sin\pi t dt$$
ここで、\(A”_{n+1}\) を代入して
$$I_{n+1}=\frac{-\pi^{n}}{(n+1)!}\int_0^1\{\color{blue}{-(4n+2)(n+1)t^{n}(1-t)^{n}+n(n+1)t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}}\}sin\pi t dt$$
展開して
\begin{eqnarray} I_{n+1}=&\frac{-\pi^{n}}{(n+1)!}\int_0^1-(4n+2)(n+1)t^{n}(1-t)^{n}sin\pi tdt\\ &+\frac{-\pi^{n}}{(n+1)!}\int_0^1n(n+1)t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}sin\pi tdt \end{eqnarray}
係数を前に出す
\begin{eqnarray} I_{n+1}=&\frac{\pi^{n}}{\cancel{(n+1)!}_{n!}}(4n+2)\cancel{(n+1)}\int_0^1t^{n}(1-t)^{n}sin\pi tdt\\ &+\frac{-\pi^{n}}{\cancel{(n+1)!}_{(n-1)!}}\cancel{n(n+1)}\int_0^1t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}sin\pi tdt \end{eqnarray}
約分などして形を整える
\begin{eqnarray} I_{n+1}=&\frac{4n+2}{\pi}\underbrace{\frac{\pi^{n+1}}{n!}\int_0^1t^{n}(1-t)^{n}sin\pi tdt}_{I_n}\\ &-\underbrace{\frac{\pi^{n}}{(n-1)!}\int_0^1t^{n-1}t^{n-1}(1-t)^{n-1}sin\pi tdt}_{I_{n-1}} \end{eqnarray}
\(I_{n}\) と \(I_{n-1}\) に変換して
$$I_{n+1}=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}$$
(証明終)
大変な計算でしたね。
目的の形へ式変形していく計算力が必要
(2)解説:πが無理数を証明
それでは、ここで「πが無理数の証明」をします。
背理法を使う
πを有理数と仮定する。
\(\pi=\frac{p}{q}\) と表せる(p,qは互いに素な正の整数)
(1)より
$$I_{n+1}=\frac{4n+2}{\pi}I_n-I_{n-1}$$
$$I_{n+1}=\frac{4n+2}{\frac{p}{q}}I_n-I_{n-1}$$
$$pI_{n+1}=q(4n+2)I_n-pI_{n-1}$$
両辺 \(p^n\) 倍して
$$p^{n+1}I_{n+1}=q(4n+2)p^nI_n-p^2p^{n-1}I_{n-1}$$
ここで \(X_n=p^nI_n\) とおくと
$$X_{n+1}=q(4n+2)X_n-p^2X_{n-1} ・・・(※)$$
\(X_n\) が正の整数を示す
(1)から
$$X_0=p^0I_{0}=2$$
$$X_1=p^1I_{1}=p\frac{4}{\pi}=p\frac{4}{\frac{p}{q}}=4q$$
\(X_0,X_1\) は整数なので、(※) から帰納的に \(X_n (n=0,1,2,\cdots)\) は整数になる
さらに、\(I_n>0\) より \(X_n>0\) であるので、\(X_n\) は正の整数
\(\displaystyle\lim_{n\to\infty} X_n=0\) を示す
\(0≤t≤1\) のとき
$$0≤t^n(1-t)^nsin\pi t≤1$$
$$0≤\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt≤\underbrace{\int_0^11 dt}_{1}$$
辺々 \(p^n\dfrac{\pi^{n+1}}{n!}\) 倍して
$$0≤\underbrace{p^n\frac{\pi^{n+1}}{n!}\int_0^1t^n(1-t)^nsin\pi t dt}_{X_n}≤p^n\frac{\pi^{n+1}}{n!}$$
$$0≤X_n≤\pi\frac{(p\pi)^n}{n!}$$
ここで \(\displaystyle\lim_{n\to\infty} \pi\frac{(p\pi)^n}{n!}=0\) なので、
ハサミウチの定理より
$$\lim_{n\to\infty}X_n=0$$
以上より
\(X_n\) は「正の整数」であり、「\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}X_n=0\)」である
これは矛盾である。
したがって
\(\pi\) は「無理数」である
背理法を使って
「πが無理数であること」を示すことができました!
発想は難しい
背理法の考え方や、式変形などを追って理解できるとよい
類似した入試問題
tan1°は無理数か
京都大学で出題された無理数であることを示す問題です。
円周率が3.05より大きいことを示せ
東京大学で出題された円周率に関する問題です。
まとめ:πが無理数であることを示せ(2003・大阪大・後期)
「πが無理数であることの証明」に関しての解説まとめは以下の通りです。
・「πが無理数であることの証明」の発想は難しい
・証明に必要な漸化式を求めるのは、式変形の力が必要
・背理法を利用して証明する
以上で「πが無理数であることの証明」を終わります。
少し複雑な内容でしたが、「πが無理数であること」と向き合うのも面白いですね。
少しでも勉強の参考になれば幸いです。それではまた。
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